海外観光客を、どうやって「わが町・わが村」に呼ぶのか――西伊豆エリアを事例に考察する、ローカル誘客の勝ち筋

訪日観光は、もはや一部の大都市だけの話ではない。年ベースの訪日外客数は2023年の約2,507万人から2025年には約4,268万人へ、わずか2年で約1.7倍に拡大している。しかし、その恩恵が均等に行き渡っているわけではない。魅力を持ちながらも認知されていない地域が、海外から選ばれるようになるには何が必要か。西伊豆を事例に考える。

地方誘客の失敗は「素材不足」ではない

まず重要なのは、地方誘客の失敗を「素材不足」と誤解しないことだ。実際には、素材が足りないのではなく、検索の土俵に上がれていないケースが多い。西伊豆も、海、温泉、富士山景観、食、神社など観光素材は豊富だが、海外観光客にとっての「有名な目的地」にはまだなり切れていない。

競争相手は近隣地域ではなく、すでに海外で"指名検索される場所"になっている国内の有名エリアだ。沖縄・離島系のダイビングエリアは海外旅行者からの認知が高い一方、西伊豆の認知はかなり低い。つまり、勝負の前提は「知られていない」という事実を直視することにある。

スノーリゾートの成功に学ぶ

参考になるのが、スノーリゾートの伸び方だ。白馬や妙高、野沢温泉などは、雪質の良さが口コミで広がり、いまや海外旅行者にとって明確な訪問目的地になっている。アクセス情報も整備され、「空港からどう行くか」まで含めて旅行商品として理解されている。

ローカル観光地に必要なのは、単なる紹介ではなく、「どうやって行くかまで含めて一つの体験として売ること」である。

訴求の「翻訳」が必要だ

地域側はしばしば「海がきれい」「ご飯がおいしい」「温泉がある」と説明する。しかし、海外観光客にとって重要なのは、それが自分の旅程の中でどう魅力的なのかである。

西伊豆であれば、海だけを訴求するのでは弱い。むしろ、"東京圏から行ける、1泊2日または2泊3日で完結する海辺の小旅行"として見せるべきだ。海のアクティビティに加え、富士山の景観、温泉、地元の和食、神社などを組み合わせることで、単一目的地ではなく複合的な日本体験として価値を高められる。

「きれいな海があります」ではなく、「都市滞在の延長で行ける」「週末で完結する」「日本らしい海・温泉・食がまとめて味わえる」「混みすぎていない」。地域が持っている価値を、海外の旅行者の文脈で再編集しなければならない

AISASで組み立てる誘客設計

海外旅行者は、いきなり予約しない。まず目に留まり、興味を持ち、検索し、予約し、最後に共有する。Attention、Interest、Search、Action、Shareの各段階ごとに施策を組み立てることが重要だ。

認知段階――「アンテナに引っかかる量」を増やす

ローカル観光地の情報発信は内向きになりやすい。日本語だけの情報、更新頻度の低いSNS。これでは見つけてもらえない。まだ海外での名称認知が弱いエリアでは、英語による発信量そのものが重要になる。

SNSは「公式が頑張る」だけでは足りない。海外の旅行・ダイビング・アウトドア文脈の中に地域を入り込ませることが重要だ。海外ダイバーが集まるコミュニティ系アカウント、旅行系クリエイター、水中写真家などとの接点をつくり、リポスト・タグ付け・コラボ投稿・現地招待を通じて、地域アカウント単体では届かない層にリーチしていく。

狙うべきは、フォロワー数だけの大物ではなく、地域の体験価値と相性がよく、信頼を伴って紹介してくれる発信者だ。ニッチな趣味・旅・写真・自然体験の領域では、熱量の高い中規模発信者の方が実際の送客力を持つことも多い。ローカル地域のプロモーションは、派手な一発よりも、相性の良い文脈への継続露出の方が効く。

検索段階――「不安の入口」を消す

海外観光客は、行きたい気持ちがあっても、少しでも面倒だとすぐ離脱する。英語で情報が出ない、料金が分からない、アクセスが曖昧、予約方法が不明。こうした摩擦は、地方誘客では致命傷になる。

西伊豆のような立地では、特にアクセス不安の解消が要だ。「車がないと厳しい」という評価があるなら、それを隠すのではなく、乗り越え方を商品化すべきである。都内からのモデルルート、空港からの移動方法、鉄道と送迎の組み合わせ、1泊2日の推奨旅程、荷物の扱い。これらを文章・図・動画で整備し、「思ったより簡単に行けそうだ」と感じさせる必要がある。

地方誘客では、アクセス案内は補足情報ではなく、商品価値の一部である。

行動段階――OTAの活用

海外からの集客では、自前サイトだけで勝負するのは難しい。Viator、Klook、VELTRAのような予約基盤を活用し、第三者評価や信頼基盤を整えることが重要だ。公式サイト、会社情報、保険、ガイド資格、レビュー、地域メディア掲載などを積み上げ、OTAに載せても安心な事業者として見せることが必要になる。

共有段階――UGCが最大の資産

地方誘客は、広告だけでは伸びにくい。最終的に強いのは、来訪者自身が発信するUGCだ。海の写真、富士山の見える景色、温泉、食事、ローカルな空気感。そうした体験が自然に投稿され、次の旅行者の検索に引っかかる状態を作れれば、地域の認知は雪だるま式に育つ。ハッシュタグ投稿の促進、UGCのリポスト、固定タグ化、公式が交流のハブになること。これが次の集客を生む導線になる。

結論――必要なのは四つだ

ローカル誘客に必要な4つの勝ち筋

  • 知られること ―― 英語での発信量を増やし、検索の土俵に上がる
  • 伝わる形で魅力を言い換えること ―― 旅行者の文脈に合わせて価値を再編集する
  • 不安を潰すこと ―― アクセス・予約・言語の障壁を徹底的に除去する
  • 来た人が語りたくなる導線をつくること ―― UGCが次の認知を生む循環を設計する

西伊豆は、その可能性を十分に持っている。認知はまだ低い。だが、それは裏を返せば改善余地が大きいということでもある。都市からの距離感、海と温泉と食の組み合わせ、混雑しすぎていない環境、日本らしい風景。これらを、英語で、検索に強く、予約しやすく、共有されやすい形へ再編集できれば、海外観光客にとっての「次に行きたい日本の地方」は十分につくれる。

海外から人を呼ぶとは、世界に向けて大声で宣伝することではない。"この町は、自分の旅先候補に入る"と感じてもらうための情報設計をやり切ることである。わが町・わが村に必要なのは、実は大きな奇策ではなく、その地の魅力を、世界の旅行者の文脈に合わせて丁寧に翻訳し直すことなのだ。

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