「仕様駆動開発」×「AIエージェント」による経営ツールの内製化

営業はSlack、案件はNotion、数字はExcelと会計ソフト。多くの企業で、経営に必要な一次情報はツール間に分断されている。ある顧客企業では、Claude Codeを軸にした「仕様駆動開発 × AIエージェント」の組み合わせで、100超のエンティティ・130ページ規模の社内経営管理ツール『X-Scope(仮称)』をわずか2〜3ヶ月で内製化した。SaaS・外注開発・Excel運用に続く「第四の選択肢」の実例と、そこから見えたAI時代の業務改革の輪郭を考えたい。

散らばったツールと、数字を待つ経営

ある顧客企業の経営管理は、かつて多くの成長企業と同じように、いくつものツールとファイルの上に成り立っていた。商談の経緯はSlackのスレッドに残り、補足情報はNotionやGoogle Sheetsに分散し、営業数字はExcelで管理され、勤怠・工数実績は勤怠管理システムにあり、会計上の確定値は会計ソフトの月次締めを待たなければ見えなかった。個々のツールは機能していた。しかし、経営に必要な一次情報はつながっていなかった。営業は商談を追い、PMは案件原価を追い、経理は会計数字を締める。それぞれが正しい仕事をしているにもかかわらず、経営は最後に集計された数字を待つしかなかった。

X-Scopeが接続したもの

その状態を変えるために開発されたのが、社内経営管理ツール「X-Scope(仮称)」だった。X-Scopeは、既存ツールを置き換えるだけのシステムではない。Excel、会計ソフト、勤怠管理システム、Slack、Notion、Google Sheetsに散らばっていた情報を、経営判断に使える一つの流れへと接続するための基盤である。営業担当がSlackに残したリード対応の記録は、AIによってアクティビティとして分類され、パイプラインに反映される。案件が「受注」になると、「顧客に変換」ボタンからCustomer、Project、Dealが同時に生成される。商談はそのままプロジェクトになり、PMの担当案件として動き出し、月別アサインと勤怠管理システムの実績工数に紐づいて、原価が自動計算される。

見積業務も同じ流れに組み込まれた。見積書は採番、改定、上長承認、PDF生成、Gmail送付、GCS保管まで一気通貫で処理される。電子帳簿保存法への対応も、運用後の保管場所探しやファイル名管理に依存しない。工事進行基準による売上計上は、原価進捗率をもとに自動計算され、最終的には会計ソフトの確定実績で上書きされる。現場の進捗、PMのアサイン、会計上の確定値が別々に存在するのではなく、X-Scope上で同じ経営数字としてつながっていく。

可視化されたのは、数字だけではない

営業は「導入マトリクス」で顧客とパートナーの組み合わせを確認し、まだ提案できていない余地を見つけられるようになった。PMは個人ダッシュボードで、担当案件の粗利、アサイン、リスクアラートを確認できる。AMは顧客別収支で、契約の健全性や追加提案の余地を見る。経営陣は全社サマリーで受注残、稼働率、FTE利益を把握し、月次スナップショットから細部へドリルダウンする。組織図はorgChartNameを優先する統一ロジックで表示され、人事、営業、PMが同じ組織像を見ながら会話できる。

さらに、Slack Botとして用意された「X-Scope Assistant」に話しかければ、権限に応じた数字が返ってくる。「先月の主要顧客A社の粗利は?」と聞けば、探すべきスプレッドシートや会計ファイルを開かなくても、必要な範囲の数字を確認できる。低粗利PJ、契約満了が近いパートナー、未アサインメンバーなどは自動的にアラート化され、平日朝10時にSlackへ通知される。経営管理は、月次で数字を取りに行く作業から、日々の業務の中で数字が立ち上がってくる仕組みに変わった。

2〜3ヶ月で作った規模と、その方法

この取り組みで特に重要なのは、X-Scopeが大規模な外注開発や長期の専任チームだけで作られたわけではないという点である。構築されたシステムの規模は小さくない。エンティティは100件以上、APIモジュールは50件以上、Web画面は130ページ、外部API連携は15種類に及ぶ。見積書機能、パートナー管理、組織図、X-Scope Assistant、Perch連携、Josys連携など、従来型の開発であれば、企画から実装まで個別に数週間を要しても不思議ではない機能群である。それが、Claude CodeというAIコーディングエージェントを活用することで、2〜3ヶ月という短期間で形になった。

開発の中心にあったのは、「仕様駆動開発」と「AIエージェント」の組み合わせだった。人間は、どの業務をどう変えたいのか、どの数字をどの粒度で見たいのか、承認や権限をどこで止めるべきかを考える。その内容に加えて、CLAUDE.mdに整理された設計ルールをClaude Codeに渡す。そこには、フォント規約、POC計算式、DB変更ルール、ロール権限、マイグレーション手順、テスト方針などが記載されている。Claude Codeはそれを読み、GitHub上の既存コードを精読し、影響範囲を特定し、実装計画を立て、コードを書き、テストを追加し、マイグレーションを生成し、ドキュメントまで更新する。

AIに任せれば全部できるわけではない

もちろん、AIに任せれば何でも自動で正しく完成するわけではない。むしろ、人間側の役割は重くなる。業務の例外、承認権限、会計数字との整合、誰に何を見せるべきか、どこまで自動化してどこから人間の判断を残すべきか。こうした問いは、Claude Codeが勝手に答えを出すものではない。

AIは実装速度を上げるが、何を作るべきかを決めるのは人間である。だからこそ、コードを書けるかどうか以上に、業務を構造化して語れるか、数字の意味を理解しているか、現場と経営の間にある断絶を言語化できるかが重要になる。

SaaS・外注・Excelに続く「第四の選択肢」

その意味で、X-Scopeは単なる経営管理ツールではない。Excel、会計ソフト、勤怠管理システム、Slack、Notion、Google Sheets、Gmail、GCS、GitHub、Google Cloud、Claude Codeといった具体的なツール群をつなぎながら、顧客企業の経営管理そのものを再設計した実践である。SaaSでは自社業務に合わない。外注開発ではコストが高く、変更にも時間がかかる。Excel運用では属人化と情報分断から抜け出せない。

その間に、自社の業務を知る人がAIエージェントと組み、自社専用の業務システムを作るという第四の選択肢が現実になりつつある。

数字を待つ経営から、数字と対話する経営へ

数字を待つ経営から、数字と対話する経営へ。X-Scopeがもたらした変化は、ダッシュボードが増えたことでも、AIがコードを書いたことでもない。部門ごとに分断されていた業務の一次情報が、経営判断に使える形でつながったこと。そして、その仕組みを、事業を理解する人間とAI開発ツールの協働によって短期間で作れることを示したことである。この顧客企業での取り組みは、AI時代の業務改革がどこへ向かうのかを示す、かなり具体的な一例と言える。

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